日進市の東の端、愛知国際病院の隣に、公益財団法人アジア保健研修所(Asian Health Institute 通称AHI)はある。アジアの各地で活動している「保健ワーカー」を育成するNGO(非政府組織)だ。
AHIの活動は来年で創立40周年。毎年、保健ワーカーへの研修などを行っている。
ワーカーが現地NGOで取り組んでいるのは、「保健」「福祉」といった生命に関わることから、「環境」「ジェンダー」「パートナーシップ」まで幅広い。
今回は、AHI職員の鳥飼さんからAHIの活動や、SDGsとの関わりについてお話を伺った。
★人を育てる「国際研修」
アジアの各地域で、地域住民と一緒になって健康や教育・平和について取り組むNGOワーカーのリーダーたちが互いの経験から学び合う
「参加型」の研修を、毎年、日進市で開催している。
インド、カンボジアなど、開発途上国と言われるアジアの国々では、貧困や紛争、差別などによって人々の健康が脅かされている地域が多くある。AHIは、そのような地域に対してお金や物を送るのではなく、現地で働く人材を育成することで、人びとの自立を促している。
日本にやってくる研修生たちは、女性たちや権利・人権が侵害されている人たちなどのエンパワメントの活動など、アジアの弱い立場の人々の健康や保健開発を支援する活動に取り組んでいる。
AHIは、一番弱い立場にある女性や子どもを含む村の人全てが参加する「参加型社会」を目指す。
研修では、現場で活動を行う際に必要な「参加型社会で求められるリーダーとしての考え方や、態度、スキル」等を自らの体験から獲得する。
それぞれの活動地域での
経験や課題を共有し、新しい価値観や考え方に触れる。
そしてこれからの活動計画を立て、地域へ戻っていく。
保健ワーカーたちがAHIでの得た学びは、その人だけのものではない。
現地で支援を必要とするすべての人へと繋がっていき、
住民達が自ら生活を変えようと動き出すことができるのだ。
★AHIとたくさんのボランティア
「オープンハウス」にはボ約200人のボランティアが参加する。
たくさんのボランティアが参加するAHIではどのような関わり方をしているのだろう。
AHIは、多くの市民からの寄付金で運営されているだけではなく、たくさんのボランティアが参加している。その原点は、創設者である川原さんの思い。
川原さんが1980年にAHIを設立する際、この活動を少数の限られた一握りの人で進めるのではなくて、
できるだけたくさんの市民の力で進めていく団体にしたい、
自分たちで健康を保つことができるようにとアジアの人々の健康を願った。
それは今でも引き継がれており、ボランティアとして関わってもらうだけでなく、資金面でも多くの割合を賛同してくれる方の会費や寄付で賄うことができている。そしてその半分くらいは日進市民の人たちが支えてくれている。
それは、研修生たちが現地で学んだことを持って帰って伝えていくことと重なる。
「国際的な活動っていうとわざわざどこかへ行かなきゃって思いがちなんだけど、
日進にいながら近いところで国際的な取り組みに関われますよ」。
★AHIの活動とSDGs
1980年から現地のワーカーたちを育てる活動をしてきたが、アジアの国々で起こっていることと日本の私たちの生活はどこか繋がっていると感じていたと鳥飼さん。AHIの活動を人に伝えても、どこか離れた違う国のことで私たちとは関係ない、というような傾向があり、歯がゆく思っていた。
しかし、2015年にSDGsが採択された時、
「我が意を得たりと思った」という。
世界のあちこちで起こっている問題は、そこの国だけで解決できる問題ではなく、どこの国やどんな立場であっても関わっている。
違う立場の人たちがそれぞれの立場を超えて協働していくことが、
少しずつでも持続可能な世界に向けて近づいていくことにつながるというメッセージがSDGsにはあった。
伝えたいことがSDGsという形で広まったことで、対外的にも活動が進めやすくなった。
★アジアを通して知ってほしいこと
研修生たちの活動を通して私たちの日常が見えてくる側面もある。
例えば、インドの女性たちがふだん頑張っていることと
私たちが日本の社会で取り組んでいることでは、
共通していることがとても多い。
「カーストの中にも入れてもらえないダリットという人たちがいる。カースト制度が法律上廃止されても日常に浸透していくには時間がかかる」というインドの課題がある。
ダリットへの差別や、その人たちの生活改善とか向上のための取り組みは特別なものかというと、日本の中でもそういう取り組みがまったくないわけではない。
日本でも、食や教育など機会がある子たち・そうでない子たちの格差が進んでいたりもする。インドはカースト制があることでわかりやすいけれど、日本は見た目わかりにくい。社会の格差や差別があったり、いじめであったりとドロドロとしたものが存在している。
アジアの人たちの取り組みを通して
私たち日本の社会について見えてくる部分があり、
それを踏まえて、
自分たちは自分たちの地域で何ができるかと考えられる。
現地ワーカーである研修生の話を生で聞き、ダリッドの人たちのことを通して考えることで、私たちが日本の中だけでは、話しにくかったり見えにくかったりすることも、
取り組みに照らし合わせて振り返ったり話したりできる。
★私にあった参加の仕方
AHIを支える方法はたくさんある。
まずはAHIについて知りたいという方にオススメなのが、
誰でも参加できる「AHI初めて始めて講座」。
毎月第4土曜日午後2時から定期的に開催している。
研修生とともに過ごしたり、イベントなどに参加するという方法もある。
研修生がやってきて、初めての土曜日(2019年度は9/7(土))には
「ウェルカムパーティー」が開かれる。
自国の衣装を着たり音楽や踊りを披露したり、アジアの料理やスイーツなども楽しめる。日本のことは、ボランティアやインターンの人たちが、空手や琴の演奏など披露してくれる。お互いを知りながら交流するので参加しやすいイベント。
「お出かけボランティア」は、
研修生が日曜日に自由に過ごすので、ショッピングなどに同行してもらうボランティア。英語で日常的な会話も楽しめるだろう。
「チカチカしよう」は、
研修生たちと膝を交えておしゃべりしましょうという企画。
チカチカはフィリピンのタガログ語でおしゃべりのこと。小グループに分かれ、各国から参加している研修生たちの話を直接聞くことができる貴重な機会だ。通訳があるので言葉に不安がある人でも参加しやすい。今年は9/14(土)、アジア料理を食べながらおしゃべりを楽しめる。
「オープンハウス」は、
来場者が650人を超えるという大きなイベントで、いろんな形でアジアの魅力を体験・感じてもらうことができる。今年は10/14(月・祝)に開催。
各研修生が、どんな成果を持ち帰るかという話を聞けるミニワークショップがあり、約6週間勉強したことを報告する機会にもなっている。楽しいお祭りでありながら、SDGsにつながることを感じられるかもしれない。この日は研修の最終日、イベントの中で研修の修了式を行い、翌日研修生たちは帰国する。
このほか、2018年度に続き今年も「SDGsゲーム体験会」を主催、楽しみながらその理解を深めた。映画鑑賞をして話し合いをするイベントや、
「ひとつかみサポーター」などの気軽な寄付支援といった関わり方もある。
★SDGsに向けてのはじめの一歩
AHIではいくつもの広報誌が出ている。
ボランティアの編集委員会の人たちが、読者が読みたいと思うものを読者の視点で編集する。そこには研修生の話やAHIスタッフの言葉も掲載されている。
活動に関わる一人一人にはストーリーがあり、広報でも誰かの存在や感情を通して伝える方が寄り添いやすいし伝わりやすい。
国際的な活動が自分にもつながっていると実感できたら世界はとても地続きになるのではないだろうか。是非その体験をしてほしいと思う。
「AHI、そしてアジアを知る」
SDGsに向けてわたしにもできるはじめのいっぽを是非踏み出してもらいたい。